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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(あ)1192号 決定 1968年11月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意は、判例違反をいう点もあるが、その判例を具体的に示しておらず、その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

弁護人三浦斧吉の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、同法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、裁判所は、原則として、自らすすんで検察官に対し、訴因変更手続を促しまたはこれを命ずべき義務はないのである(昭和三〇年(あ)第三三七六号、同三三年五月二〇日第三小法廷判決、刑集一二巻七号一四一六頁参照)が、本件のように、起訴状に記載された殺人の訴因についてはその犯意に関する証明が充分でないため無罪とするほかなくても、審理の経過にかんがみ、これを重過失致死の訴因に変更すれば有罪であることが証拠上明らかであり、しかも、その罪が重過失によって人命を奪うという相当重大なものであるような場合には、例外的に、検察官に対し、訴因変更手続を促しまたはこれを命ずべき義務があるものと解するのが相当である。したがって原判決が、本件のような事案のもとで、裁判所が検察官の意向を単に打診したにとどまり、積極的に訴因変更手続を促しまたはこれを命ずることなく、殺人の訴因のみについて審理し、ただちに被告人を無罪とした第一審判決には審理不尽の違法があるとしてこれを破棄し、あらためて、原審で予備的に追加された重過失致死の訴因について自判し、被告人を有罪としたことは、違法とはいえない。

その他、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

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